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健診は発達の遅れを指摘して親を焦らせる場ではない

こんばんは。滋賀県栗東市の「栗東よしおか小児科」院長の吉岡誠一郎です。

最近ね、10ヵ月健診でつかまり立ち出来ないからという理由で、立て続けにフォロー依頼の紹介が来たんですよ。それに関するモヤモヤを書きたいと思います。「首がすわる」「寝返り」「ひとりで座る」「ハイハイ」「ひとりで歩く」など赤ちゃんが生まれてからどういった動きが出来るようになるか目安の時期(月齢)が、小児科や発達の教科書に書いてあってマイルストーンなどと言ったりします。もちろん個人差があるので、早い子、遅い子、順番通りに出来るようにならない子など多様ですし、目安の月齢に出来てなかったとしても問題が無いことも多いです。今回でいうと、つかまり立ちが出来るようになるのが平均的にも9~10ヵ月なのですが、今回10ヵ月健診でそれが出来ないことを理由に、いったい何割の子が紹介されているのだろうと不思議になりました。

マイルストーンの考え方は便利だけど

このマイルストーンは発達が順調に進んでいるかを確認するには便利であるし、子どもの発達に関わる人たちはみんな知っていることなのですが、マイルストーンに達していないからと、発達について問題がある可能性を判断するのは、あまりに勉強不足というか思考停止感があります。マイルストーンは大まかな目安であって、それに達していない上にやはり何らかの所見があり疾患の可能性があるかどうかというところまで、健診に関わる保健師にしろ看護師にしろ医師にしろ、専門家であれば考えをめぐらすべきなのではないかと考えます。

健診というのは隠れた疾患を見つける場

今回のつかまり立ちが遅れているというのは、粗大運動発達の遅れの可能性があるんですけど、それで考えられる疾患は、筋肉や神経の疾患、整形外科的疾もあるかもしれません。もしそうなら、つかまり立ちをしない以外にも何かの所見があるはずです。例えば、筋疾患であればハイハイだって上手くないはずなんです。つかまり立ちはしないけど、滋賀レイクスのハーフタイムでたまにやってる赤ちゃんハイハイレースで一番とるような子が筋疾患なんてことは稀です。反対に筋肉や神経の疾患が疑われるようであれば、疑われる疾患に応じて必要な検査をして、それがリハビリで改善されるものか、投薬で軽快するものかなどを明らかにする必要があります。

健診で〇〇出来ないから紹介されたときの問題

今回のように、つかまり立ち出来ないから紹介されたと保護者が認識したときに、一番ありそうで困るのが、保護者が焦って子どもに練習をさせて、立たせようとすることなのです。発達というのは練習させて出来るようにするものではありません。状況によってはリハビリがそれに近いことになるかもしれませんが、それは疾患があり専門的な根拠に基づいて行われるものであり、家庭で自己流でするものとは違います。やるのであれば、立つ前の段階、ハイハイが出来るなら、ハイハイをたくさん出来る環境や遊びを通して、立つために必要な筋力やバランスを身に着けて、子ども本人が自ら立とうとするのを待つのが良いです。健診現場では、遅れを指摘するだけでなく、こういった自宅でどういうことを心がけて過ごすと良いかまで指導することが大切だと思います。それは運動発達だけでなく、言葉やコミュニケーションの発達の遅れに関しても同様です。